Story

今回登場の生徒

ここは相模原、新興のGARDENである相模女子高等学館の広大な校庭敷地に葵はいた。
彼女、石川葵は相模女子高等女学館の新一年生。
今年、新興の相模女子の門を叩いた選ばれし世代の代表格といえた。
百合ヶ丘にも、桜ノ杜にも入ることが出来たであろう才媛。
その彼女が今、相模女子という近隣では最も格式の低いGARDENにいるという事実はある意味奇跡と言えた。

今日はそんな新一年生達の上級生との最初の顔合わせの日であった。
校庭に集められた1年生達の前にたった一人の上級生が現れる。
「おはよーございまーす!皆さん?元気ですかあ?」
2年生の片倉紫苑がにこやかに一年生たちの前に立つ。
「今日から皆さんと一緒に戦うことになりました、片倉紫苑ともうします~二年生ですよぉ。」
紫のセミロングの美髪に端正な面貌、独特の話し方から誤解されがちだが三年生から新入生の教育を任されるということは豪の者であることの証左だ。
「一年生の皆さんはとっても強いときいてますよ~それじゃあまずは走りこみから参りましょうか」

事実、昨今の相模女子の獅子奮迅の活躍ぶりを見て入学を決めた今年の相模女子の新入生は粒ぞろいと言えた。
昨年までなら百合ヶ丘、桜ノ杜、シスルなどに入学していたであろう才能が今年は相模女子にも多くやってきたのだ。
「こちらをみてくださーい」
中空に魔法で映し出されたディスプレイに相模原周辺の地図が表示される。
「ここからぁここまでダッシュですう」
指された場所はとてつもなく長距離だった。
「は?」
葵が思わず口走ってしまう。
「?どうしましたかあ、えーっと…」
「あ、すみません先輩。わたしは1年2組の石川と申します」
マズイとは思ったが、すぐさま葵はハキハキと答えた。
「石川なにさん?」
「葵です」
「葵ちゃんねぇ~なにか質問ですかあ?」
「こ、この距離をダッシュですか?これはマラソンの距離だと思うのですが…」
「そうですね~ダッシュです。さっさとはじめちゃいましょうか~」
「あ…はい」
葵は(うわあ、本気?)と思いながらも引き下がる。
確かにトレーニングは大切だから…と自分に言い聞かせる。
この紫苑という先輩の持つ特異なオーラに対抗してはいけないと彼女の本能が知らせていた。

「そんなだりぃことやってらんねえって!とっととチャーム使った戦闘訓練させろよ!」
振り向くと金髪のツーサイドアップの可愛らしい少女が前に出てきていた。
(うわ、なにこの人…)
葵は心の中で思う。
でも、確かにここにいるみんなは走りこみなんかより戦闘訓練がしたいに違いないのだ。

「チャーム戦闘ですかあ?」
間の抜けた声で紫苑が言う。
「そうだよ!あ、俺は1年の伊達。よろしくな、紫苑先輩!」
不敵に笑う降瑠。
「よろしくねぇ、あ、伊達なにさんですかあ?わたし下の名前で呼びたいの」
「え?あ、いやそんなことはどうでも」
「え~っとだてだて、あ、あった伊達降瑠(だて・ふりる)さんでしょ?」
葵はポケットに入れていたクラス名簿をたどり名前をばらしてしまう。
「おい!てめぇなに余計なこと!!」
「よろしくね~降瑠ちゃん!」
「ふ、ふりるちゃ?!先輩!上で呼んでもらえないすか?名前、嫌いなんですよ!」
「え~なんでですか?可愛いのにい~まあ、それはそうと…チャーム戦闘訓練したいんですか?」
仕切り直しだとばかりに降瑠は進みでた。
「当たり前すよ!ここにいるやつら多分みんな同じ気持ちだって!」
葵はこの降瑠という子がとても気になった。強い興味を抱いた。
金髪は染めてるのか地毛なのか分からないがとても綺麗だった。
女の子らしい髪型に似つかわしくない乱暴な口調。
「じゃあ…」
紫苑が口を開く
「授業内容を変更しましょーかー」
「お!まぢで!やった!なあ?」
不意に振り向くと同意を求めてくる降瑠
「え?あ、まああたしはどっちでも」
葵は急に振られてあわてる。
「それじゃあ一通りの型をおしえようかなあ降瑠ちゃん、お相手お願いしますねぇ?」
降瑠が指名された。
「オレ?いいっすよ!その代りオレが勝ったら”ふりる”って呼ぶのやめてくださいよ!」
「勝負じゃないですよ~あくまで演武です」
にっこり笑う紫苑に葵は寒気を感じた。

「かはっ、んああああ!」
突っ伏している降瑠の背中をぐりぐりと訓練用のチャームで穿るように突く紫苑
「なんですかあ?早く立ってくださいねぇ型はまだまだ序盤ですよ~」
息は上がり、苦痛と屈辱に顔を歪めて降瑠は突っ伏している。
紫苑の戦闘力は圧倒的だった。
型の伝授とは名ばかりの、訓練用CHARMを使った決闘であったが、降瑠は数合切る結ぶことしかできなかった。
葵を始め静まり返る一年生たち...。

確かに紫苑はヒュージとの戦闘で多くの戦果を上げている著名なリリィだ。
それでも新一年生たちはどこかで舐めていたのかもしれない。
有名とはいえ、所詮は相模女子レベルだと。
そうした認識を1年生全員が改めざる得なかった。
降瑠の入学試験での戦闘技能はA判定。トップレベルだったからだ。
断じて降瑠が劣っていたというわけではない。
この紫苑という先輩が異常なのだ。

降瑠はうちすえられ、立つことも許されずただただなぶられ続けている。
それでも参ったと言わないのは、勝ち気な彼女らしい気概だったと言える。
紫苑はCHARMで穿るのをやめて距離をとる。
「立ち上がれるかしらぁ~」
挑発するように笑う紫苑。
意識が朦朧とするなか降瑠はなんとか模擬戦用のチャームを杖にして立ち上がった。
しかし降瑠の体力は限界に近く、すぐに片膝をついてうちすえられた肩あたりを抑える。
膝はがくがくと笑いまともに立てないようだった。
ほとんどの1年生が、恐怖で引きつった顔でそれを見る中、葵だけが違っていた。
葵は半ば興奮しながらそれをながめる。
この降瑠という子の闘争心と、紫苑の嗜虐性にも近い感覚に当てられたのかもしれない。
これではいけないと思い直し、頃合いを見計らい一歩前に出る葵。

「お待ちください、紫苑先輩」
恭しく一礼して近づく葵
「?なんですか~葵ちゃん」
構えは崩さない紫苑。
「これ以上は…この子が壊れてしまいます」
葵は降瑠と紫苑の間に立った。紫苑がまだ続きを所望しているような素振りだったからだ。
「なにごとも壊れるかどうかの~瀬戸際にこそ真実がありますよ~。まだまだこれからですよ~」
葵は紫苑にそう言われ、直視されると威圧感に潰されそうになった。
「何とかしなきゃ」と葵はふらふらの降瑠を抱き寄せると一緒に頭を下げる。
「我儘をいってすみませんでした、上官殿!」
葵は深々を頭をたれる。
「はぁはぁ…あ…」
葵に頭を下げさせられた所で降瑠は気を失ってしまう。
一瞬の沈黙が場を支配した。

「...そうですかぁ…じゃあ当初の予定通りにしましょう!
みなさんダッシュですよお。よーい!どーん…」
どうしてよいか分からず顔を見合わせている一年生たち。
「ビリは罰ゲームがありますよぉ」
皆の目が恐怖に染まる。どうみてもただでは済まない慌ただしくスタートしていく一年生達。

葵は残った。
降瑠の口についた血の後を拭い、絆創膏をおでこの傷に貼る。
そして着ていたコートを羽織らせると木陰で降瑠を寝かせた。

「いいんですかあ?」
紫苑がやってくる。
既にCHARMは納め、不気味な闘気も鳴りを潜めていたが葵は少しだけ身構えた。
「ビリになっちゃいますよ?」
「構いません…仕置は受けます」
葵はもう少し降瑠というこの暴れん坊のそばにいたかったし、紫苑の罰ゲームはそれ程残酷なものではないような気もしていた。
ちょっとだけ紫苑への反抗、抗議の気持ちもあった。
”ここまでしなくたっていいじゃないか”という気持ちだ。
紫苑は葵の目を見る。
「あなたは綺麗な眼をしてるのねぇ」
「え?あ...」
葵は本心を見透かされた気がして視線を外す。
「いっつ…」
その時降瑠が目を覚ました。
「目、さめた!大丈夫!?」
葵は降瑠を抱き寄せるとグラングランと揺さぶる
「いてて!やめろって...なんだ…お前か…あ、これ...お前が手当を?」
絆創膏を触りながら降瑠が言う。
「ま、まあね?暇だったし、たまたま持ってた絆創膏があったから」
「そ~ですか、まあ一応礼をいっておく、あんがと。それとさ、顔近いんだけど...」
葵は照れから顔を真っ赤にして降瑠から離れる。
「は?べ、べべべ別にたいしたことじゃないし!」
「なにおまえ怒ってんの?へんなやつ。」
降瑠は笑う。
「おこってないです!バカにしないでよ!あたしがチビだからばかにしてるんでしよ!」
「いや、べつに、オレもたいして背丈変わらないし…」
「ちょっとあなたのほうが大きいでしょ!見下して!」
「はは、なに?気にしてんだ、いてて」
「あ…ごめん」
葵は降瑠に肩をかそうと近づく。

「おやおやおや~お目覚めですかあ」
その時沈黙を決め込んでいた紫苑が口を開く
「ひっ!紫苑せ、先輩」
降瑠は逃げようとするが上手く動けない。
そのまま葵の影に隠れる
「紫苑先輩もやり過ぎだと思うけど...それでもやっぱり挑発したあなたが悪いわ。ちゃんと先輩に謝りなさいよ!ほら!」
「はぁ?なんでオレが、んああ、い、いたい、いてぇよ!」
葵は降瑠の背中をぐいぐい押す。背中の傷から激痛がおそう。
「は、んあ!や、やめ…わかった!あ、謝るから!」
葵は手を止める。
「ほら!」
「えっと...紫苑先輩...すみませんでした」
「はい、わかりました」
紫苑は降瑠の頭を撫でた。
「よくできました。最後まで向かってくる姿勢は良かったですよ~わたしは好きです、そういう子。まあ...次、舐めたら大変ですけどねぇ」
眼が笑っていなかった
降瑠は葵の影で何度も頷く。

「みんな帰ってこないけれどもう行きましょうか?二人はよく頑張りましたので私がなにか飲み物でも奢ってあげましょう」
「まじっすか!?紫苑の姉御!オレはデカデミンCがいいなあ!」
「なにそれ、調子いいんだから」
「デカデミンCですねぇはいはいわかりましたよ~」
葵は降瑠のことを古い友人のように感じた。
色々思うところはあったけど、これからここで頑張ろうと葵は思った。

(続く)