Charactor

逃げていた。
梨璃は、
一柳梨璃は山梨の山中をヒュージから逃れるため必死に逃げていた。
山梨都市部からの立ち退きを余儀なくされた避難民の一団。
梨璃は家族友達とともに、神奈川への避難を目指し大室山山中を進んでいた。
しかし、あと少しで神奈川県の防衛隊に合流できるというところで
ヒュージの群れに遭遇してしまったのだ。
信じたくない不運といえた。

悲鳴と爆音が響く大室山。
避難民たちは皆散り散りになり、もはや逃げ惑うことしか出来ない。
梨璃と梨璃の父、そして梨璃の友人である和夕は3人で山中を逃げ回っていた。
「こ、こんな...こんなことって、ひ!」
見上げるとこちらに向かって進んでくるミディアム級と呼ばれる中型のヒュージ
が目に入った。
振り返り山頂に浮遊するミディアム級を見る梨璃。
「梨璃!早く逃げよう!」
梨璃の父が焦った口ぶりでそう言った。
「和夕ちゃん?パパ...和夕ちゃんは?ねえ、和夕ちゃんがいないよ!」
「!?なんだって?」
梨璃は友人と逸れたことに気づき半ばパニック状態に陥っていた。
「兵隊さん!和夕ちゃんがいないんです!探してください、お願いします!」
梨璃は近くにいた護衛兵の腕にしがみつく。
「君たちは早く避難しなさい!我々の装備では奴らは仕留められないんだ、
みんなを逃がすことしかできない!残念だけど...お友達を探してあげる余力はないんだよ」
「そんな...」
予想以上に深刻な状況に梨璃は不安のどん底に落ちた。
そして離れて逃げている母と弟のことが頭をよぎる。
「ママは逃げれたんだよね?光も平気だよね?」
「大丈夫だよ梨璃...早く和夕ちゃんを見つけ出して...あ!」
二人は森が開けたキャンプ場跡に蹲る和夕の姿をみつけた。
「和夕ちゃん!」
梨璃はうれしくてとっさに駆け出す。
この深い森が、ヒュージたちの視界を遮り犠牲者を抑えていることは事実だった。
護衛兵は適切に指示し、避難民の多くは撤退できていた。
怪我人は多数いたがまだ死者は出ていない。
「いけない!」
走り出す梨璃を見て護衛兵が叫ぶ。
木々がないということは...
遮蔽物がないということ...
ヒュージに最も見つかりやすい場所だった。

「和夕ちゃん!よかった!」
小走りに和夕にかけよる梨璃。
和夕がうずくまりながら顔を上げた。
「梨璃...梨璃ぃ!」
安堵からしゃくりあげるように泣く和夕。
「行こう?」
足を挫いている和夕に肩を貸す形で梨璃が立ち上がる。
その時、梨璃はさっきまで話していた護衛兵と...父の絶望的な表情をみた。
背後に、気配を感じる。
ゆっくりと振り返る梨璃。
山肌があわらになった丘陵に、さっきのミディアム級の姿を確認できた。
理由などない、梨璃には分かった。
このミディアム級が自分を狙っていることを...。
キインという高周波の不快音があたりに響き始めた。
空に異様な光と共に浮かぶ、その悪魔をみて、梨璃は思考停止している。

「あ...あ、ああぁ」
梨璃は立ちすくみ、がくがくと足が震える。
「梨璃!はしれ!!!はしれ!!」
梨璃の父は大声で叫んだ。
隣の護衛兵はプラズマライフルを構え戦闘態勢に入った。
絶望的状況だが、ミディアム級レベルなら通常兵器でも足止めくらいは出来る、そう護衛兵は考えたからだ。勇敢な決断だと言えた。
梨璃は我に返り和夕をかばいながら走る。
「痛っ」
足を引きずりながら必死に走る和夕。
梨璃もそれに合わせてスピードを落としながら走る、何度もミディアム級の方を振り返りながら。
だが、現実は残酷であった。
高音の不快音が大きさを増す。
宙に浮くミディアム級がより一層強く光る。
ヒュージ達が光線攻撃をするときの予備動作だった。
学校で何度も教わる、こうなった場合数秒の内に光線攻撃がくる。
「すぐに離れないと...」
しかし和夕は走れそうにない。
不快音がピッチを上げ始める。光線の発射が近いことを意味していた。
「もういいよ、私を置いて逃げて梨璃!」
和夕が梨璃の耳元で言う。
「えい!」
それを無視し、梨璃は和夕の肩を抱いて、そのまま前のめりに跳んだ。
次の瞬間、ヒュージから光線が放たれる。
さっきまで二人のいた場所に穴があき蒸発していた。
ヒュージはすぐに第二発を準備している。
高音の不快音が新たにこだましはじめる。
「もう…むり...だよ。梨璃だけでも逃げて!」
息を切らしながら、和夕が真っ青な顔で言い、無理に笑顔を作る。
立ち上がるだけの体力はもう無いように見えた。
梨璃は和夕を強く抱いた。
和夕も梨璃にしがみつく。
「梨璃ぃ、こわいよ」
「和夕ちゃん...和夕ちゃん!!」
梨璃の父が護衛兵に何か言っている。
護衛兵は絶望的な顔をしながらも、それでも退却せずに突撃の素振りを見せた。
「パパ、ごめんね」
梨璃は心のなかでそう発した。

死を覚悟したその時
…梨璃はみた
夜空に舞う一筋の閃光を

耳触りな音は消え去り、
CHARMによる独特の斬撃音が響く。
ヒュージの多重音の咆哮が断末魔として鳴動した。
壊れたおもちゃのように崩れ落ち、そのまま光の粒子となって消えていくヒュージ。
血振りをするようにCHARMを一閃する黒い長髪の美少女。

月光をうけて、まるで天使のようなその姿を梨璃は見上げた。
「もう、平気よ...難は去ったわ」
梨璃は涙が頬を伝うのを感じた。
それは安堵や恐怖といった類のものではない。
そういったものではないことだけは、この時の梨璃にも理解できた。
それが、二人の出逢いであった。